スマホ時代における最適なマンガ表現の探求事例

『物語』を乗せる媒体は時代と共に変化し(声、実演、紙、スクリーン、電子画面)、様々な作品の形式が生まれてきた(説話、演劇、絵巻物、紙芝居、小説、漫画、映画、ゲーム、etc...)。そしてこれからも、新しい技術に合わせ、新しい表現方法が発明されていくだろう。

その観点から、今回は特に、『漫画×スマホ』の最適化に挑んだ事例をまとめてみようと思う。


現状の漫画は紙の本に最適化されている。戦後に原型が完成し、そこから大きくは変わっていない。しかし、ここ数年でスマホが普及し、人々の娯楽を楽しむスタイルは一変した。SNSをハブに、日常的にスマホで娯楽に触れ、ゲーム、ニュース、音楽、動画、とコンテンツの境界を越えて目まぐるしくエンタメを消費しているのだ。更に、スマホという点にこだわらず、媒体が紙からデジタルスクリーンに変わってきているという視点で見れば、歴史的なパラダイムシフトが起きていることは明白である。

その中で、「スマホで読む漫画」の最適解が、「紙で読む漫画」と同じであるはずがない。実際、その課題を認識している人は多いようで、様々なことが試みられてきた。主な事例は以下の通りである。


スマホに即したインターフェイス

・縦スクロール

 一般的なスマホコンテンツの表示形式に合わせ、横スクロール(紙の漫画)ではなく、縦に読み進む。それに伴い、ページの概念まで消失したものまであり、「メクリとヒキ」という、本を前提とした構成上の技法が消え、表現に大きく影響している。韓国で盛んなWebtoonでは一般的な形式だ。ただしこれに関しては、今後も、スマホコンテンツのUIトレンドに対応して変化していくだろう。

・1コマの横幅を画面の横幅と一致させる

 スマホの画面は小さいため、コマを1つずつ表示した方が視認性は高い。ただし、テンポ感や読んだ時の印象がガラっと変わるので、既存の紙の漫画をそのままこの形式に変えるだけでは、スマホファーストとは言えない。この形式でスマホファーストを狙うなら、初めからこの形式を前提として製作するのが好ましい。

・カラー化

 デジタルには印刷という概念がないので、白黒でもカラーでも、表示コストは変わらない。そのため、紙よりはカラー化のハードルが低い。とはいえ彩色コスト自体は発生するので、全ての作品がカラー化されているわけではない。


comicoの漫画はこれらの特徴を持ち、多くの読者に支持されている。

(出典:©『ReLIFE』(リライフ)夜宵草 )

また、Renta!では既存漫画を縦スクロールに最適化し直し「タテコミ」としてスマホ向けに販売している。


・動く

 アニメとまではいかないが、絵や文字を動かす試みは多く見られる。ただし、マンガは長い歴史を通して「動いているかのように見える静止画」としての表現方法を洗練させてきた。ここに追加でコストをかけるのは、費用対効果の面ではよくないかもしれない。

・音、声が出る

 セリフを読み上げたり、擬音にSEを当てる試みもある。

・動画形式(自動で進む)

 上記を組み合わせ、タップやスワイプで読み進めるのではなく、自動で場面が切り替わっていく形式。YouTubeやStoriesなどの受動的なメディアが支持される流れに沿った形といえる。


ただし挑戦した事例は多く見られるが、普及はそれほど進んでいない。個人的には、読み勧めるテンポを自分でコントロールできない点が、もどかしさを感じさせる。ただし、見せ場での引き込みは非常に強いと感じた。

(出典:【公式】マンガ「銀魂」第一話(Youtube/dTV)©空知英秋/集英社) 


・ネーム状態での掲載

 「コンテンツが即時的に消費される」「画面が小さい」という特性を踏まえ、完成原稿ではなく、ネーム(下書きに近いもの)状態で連載してしまおう、というアプローチもある。事実、株式会社フーモアの代表、芝辻幹也氏によると、完成原稿とネーム形式をそれぞれ配信した結果、ネーム形式の方が多く読まれたという実験結果になったそうだ。

また、文響社によるWEB雑誌「タメランド」では実際に、ネーム状態での連載を試みている。コンテンツ量が増え、消費スピードが早い現代では、ネーム連載によって、低コスト・高スピードで作品を量産し、ヒットしたものだけをリッチ化する、という手法は合理的かもしれない。


スマホに即したプラットフォーム

・読後、シームレスに読者がコメント書き込み、閲覧できる

・好きなコマをSNSでシェアできる

これらの機能を媒体そのものに組み込めるのは、デジタルならではであろう。漫画を読むだけでなく、感想を他の人と語り合ったり、話題のタネにするという、一連の体験全体を漫画アプリとしてパッケージングしているのだ。

・翻訳

 デジタルコンテンツは容易に国境を越える。市場拡大の観点から、翻訳は大きなポイントだと言えよう。面白い試みとしては、赤松健氏のマンガ図書館Zでは、セリフを自動で認識し51カ国語に翻訳する機能を搭載している。現段階では、セリフ同士が混ざったり、翻訳結果が微妙だったりと難点は多いが、方向性としては非常に期待できる機能である。


スマホに即した内容

・テンポアップ、刺激の強化

 他のインスタントで高インパクトなコンテンツに対抗するため、昔に比べ確実にテンポが早くなっている。また、WEB広告として切り取った際にタップされやすいような、刺激的な場面を重視する傾向が強まっている。

・1ページ中のコマ数の減少

・文字サイズの拡大

 スマホの画面は小さいため、WEBマンガ出身の作家(紙での連載経験がない作家)の作品には、自然と、上記のような特徴が見られやすい。


スマホに即したマネタイズ

・待てば無料

 一年半で急成長し、売上2位に躍り出たマンガアプリ「ピッコマ」が採用しており話題になっている仕組み。待てば無料で、待てない場合、お金を払えば続きを読むことができる。フリーミアムモデルはWEBと相性が良い。マンガ原作者である筆者自身も、2010年に同じような仕組みを試したことがあるが、幅広い読者に作品を届けつつもマネタイズできる良い手法だと感じた。 

・動画広告を視聴すると読める

 こちらも、ライトなユーザーにも作品を届ける、という観点ではスマホに合った機能だと言えよう。

・有料ポイントを消費して読む

・クラウドファンディング

 JコミFANディングが作家支援として活用しており、例えば2014年には1ヶ月で332万円の売上を達成している。

・作者が読者に直接売る

 ブロックチェーン技術との親和性が高く、将来性がある。中間のコストが削減されることで収益性が上がり、「食える」作家が増えることに繋がるだろう。また、ブロックチェーンは著作権の管理方法としても期待されている。


まとめると以上のようになるが、個人的には、まだ最適解が現れたとは考えていない。


comico形式はスマホファーストで作られており、最も対応が進んでいるとも言えるが、単行本化の際、改めて本のコマ割りに直したり、絵を描き足したりしており、マネタイズ面で不足、不整合がある。

その面では、売上でも急成長しているピッコマの「待てば無料」が注目に値する。


今はまだ過渡期かもしれないが、次のスタンダードを予測するうえで、これらの事例は非常に参考になる。


サクラス株式会社は、IT×エンタメ領域の戦略支援を得意としています。

こちらからお気軽にお問い合わせください。

SAKURAS(サクラス株式会社)

デジタルメディア戦略のコンサルティングサービスを提供しています。

0コメント

  • 1000 / 1000